国際司法機能の強化

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参議院議員 遠山清彦

 九月十一日に米国で起きた同時多発テロに対応する過程で感じたことは、「国際司法機能の脆弱さが浮き彫りになった」ということである。今回のテロは、人道上許されざる凶悪な国際犯罪であり、その責任は明確にされなければならない。私が英国で学んだ平和研究の紛争解決手法の中でも、集団レイプあるいは民間人の虐殺といった凶悪犯罪に起因する紛争の場合は、その対処は処罰を前提とした司法手続きに委ねるしかないとされていた。
 しかし、「現実に司法的対応ができるのか」と問うたとき、私は戸惑わざるを得なかった。なぜなら、法で裁かれるべきこの犯罪を裁く法(条約)が国際社会に存在せず、またこの犯罪を捜査し関係した者を拘束・訴追する組織もない。つまり、日本も含めた多くの法治国家の国内司法システムにくらべると、国際社会の司法システムは、誠に未整備で実効性が弱いのである。
 戦後国際法の特徴のひとつは、戦争の違法化であることは、疑いがない。特に、国連に加盟している国家は、自国の領土的野心のために武力を用いて侵略等の行為を行なうことを固く禁じられている。ただし、国家による武力行使が許される事態として、攻撃を受けた際の自衛の場合と、国連憲章第七章に基づいて創設される「国連軍」による武力制裁の場合が認められている。
 しかし、この原則も、今回のようなテロ事件は、想定していなかった。このテロ攻撃は(おそらく)国家が行なったものではなく、しかしそれによってもたらされた被害は戦争のそれに匹敵する規模という、まさに「新しい事態」だったのである。結局、自衛権に基づいた米英の軍事行動がアフガニスタンで開始され、これは当面のテロの脅威を除くという意味で国際社会に容認された。
 しかし、短期的措置としてはともかく、長期的なテロ撲滅という観点からすれば、より抜本的な対応が必要なのは明確だ。
 まず、国際司法機能強化のため、今国連で議論されている包括テロ防止条約の早期締結を図るとともに、国際刑事裁判所の設置に向けた動きを加速させる必要がある。
 また、テロの精神的推進力になっている“憎悪”が生まれる背景には、極度に抑圧された人々が存在していることは、誰も異論がないだろう。国際社会は、そのような人々の苦悩や意見を真摯に聞く、恒常的な「対話の場」を設ける努力をしなければならない。そして暴力を用いずとも、彼らのメッセージが世界に伝わるようにすることが必要だ。この点での国連強化も、もはや喫緊の課題だ。
 私は、今回のテロはイスラムの教義にも違背する行為であったと考えているが、世界に十二億人もいるイスラム教徒の中に、米国を中心として進行するグローバリゼーションに疎外感情をもっている人が多いのも事実だ。前述した国際法についても「西洋の国際法だ」と真っ向から否定するイスラム法学者もかなりいる。
 日本は今日まで欧米ともイスラム諸国とも良好な関係を保ってきた数少ない国だ。私は、九月十一日の悲劇をさらなる悲劇の幕開けにしないためにも、今後日本が対話外交で果たしうる役割は大きいと思う。
(総合雑誌『潮』)