179回国会 衆議院本会議 代表質問(平成23年11月17日)

○遠山清彦君 公明党の遠山清彦でございます。
私は、公明党を代表し、ただいま議題となりました野田総理大臣のアジア太平洋経済協力会議出席等に関する報告について質問いたします。(拍手)
 野田総理、公明党は、日本の国内政策との整合性を図りつつ、日本の成長に資する形での二国間EPAやFTAの締結を推進し、アジア太平洋地域に二十一世紀型の自由貿易圏を構築することには、基本的に推進の立場であります。
 しかし、今回のAPEC首脳会議に際し、政府が、日本の国民に十分な説明もしないまま、国会での議論も全く不十分なまま、そして、肝心の政府・与党内での明確な結論も得ないまま、あなたがTPP協定への事実上の交渉参加の表明をしたことについては、まことに拙速と批判せざるを得ません。拙速とは、早いだけでできが悪いという意味でありますが、このような判断をされた総理に、強く、冒頭抗議申し上げます。
 同様に、国内の議論が未成熟のまま国際公約としてしまった消費税増税策と同じように、今回の拙速な判断は、民主党政権の外交姿勢の致命的な欠点を象徴しております。その欠点とは、すなわち、戦略性のない二枚舌外交をしているということであります。
 その証拠に、首脳会議直後の日米首脳会談の発言内容をめぐり、日米両政府で、看過できない見解の相違が発生しております。ホワイトハウスの公式声明文によれば、野田総理はオバマ大統領にすべての物品・サービスを貿易自由化交渉のテーブルにのせると発言したことになっております。一方、総理は、帰国後の国会審議でその発言を否定しながらも、この声明文の訂正は求めないという、非常に不可解な言動を貫いておられます。
 このような総理の不可解な姿に、多くの日本の国民は、既に強い不安感を持っているのではないでしょうか。
 そもそも、国内と国外で異なる説明をする戦略性のない二枚舌外交は、今に始まったことではありません。沖縄の普天間移設問題についても、政権交代直後の鳩山内閣時代の大失態により、深刻な膠着状態に陥っております。
 時の総理から最低でも県外を約束された沖縄県民にとって、この問題はもはや覆水盆に返らずであり、以前の合意は盆の上には載っておりません。盆の上に載っていない水を飲めと言われても、そこにないのですから、飲めないのです。ところが、米国政府から見ますと、2006年の日米合意は有効のままなので、合意という水はまだ盆の上に載っております。よって、アメリカ政府は、日本政府に、早くその水を飲めと言ってくるわけであります。
 野田政権は、まさに今、そのはざまで苦しんでいるわけでありますが、これこそまさに自業自得、戦略性のない二枚舌外交の結果であります。
 このような経緯から、多くの国民が、今回のTPP参加問題が第二の普天間になるのではないかという深い懸念を持っているということを厳しく指摘し、以下、具体的に総理に質問いたします。

 まず、総理はなぜ、TPP協定の交渉参加を決める前に、アジア太平洋自由貿易圏、FTAAPの実現に向けた他の道筋を追求する努力をしなかったのでしょうか。
 従前のAPEC首脳会議声明においては、TPPに併記される形で、ASEANプラス3、ASEANプラス6という枠組みも明示されておりますし、ASEANを除いた日中韓のFTAの実現を優先した方が日本の経済成長に資するという専門家の意見もございます。
 政府がTPP参加のメリットの根拠として提示している内閣府経済社会総合研究所の川崎研一客員主任研究員のGTAPモデル試算の結果を見ても、日本のGDP増加率の比較で、必ずしもTPPが上位とは限らない数値となっております。具体的には、TPPの場合0.54%、日中FTAで0.66%、日中韓FTAで0.74%、日中韓プラスFTAで1.04%でございます。
 野田総理は、本日の報告の中で、TPPが唯一交渉が開始されている枠組みであることを強調しておりますが、そもそも日本主導で交渉してもおかしくない日中韓FTA等の実現の努力を怠って、TPP交渉にだけ参加する姿勢は、全く説得力に欠けます。
 米国主導のTPP以外の枠組み構築への努力は全くする気がないのですか。総理の答弁を求めます。
 野田総理が今回拙速にTPP交渉参加の決断をした背景には、交渉段階から入らなければTPPのルールメーキングに参加できず、日本に不利な枠組みになってしまうとの懸念があったと指摘されています。
 しかし、そもそもTPPは、その出発点である環太平洋戦略的経済連携協定、通称P4協定に明らかなように、全品目の関税撤廃が最大の特徴であり、最大のルールであります。ところが、総理を初め野田内閣の閣僚は、国会では、あたかも特定のセンシティブ品目について例外扱いができるかのような発言を繰り返しております。
 改めて伺いますが、今後のTPP交渉参加へ向けた協議あるいは交渉参加後の協議において、日本がこれまでの二国間FTA、EPAにおいて常に除外または再協議の対応をしてきた農林水産品を含む940品目について、関税撤廃の対象から除外することは本当に可能とお考えですか。
 また、もし総理が可能と考えていらっしゃるのなら、その考えをアメリカのオバマ大統領にハワイで明確に伝えたのかどうか、明快に御答弁をいただきたいと思います。
 一方、一部の専門家からは、今回の交渉参加表明は遅過ぎるとの指摘もあります。なぜなら、日本がTPP協定の交渉に仮に参加できるとしても、既に参加している9カ国の同意手続が今後必要であり、参加できるのは早くて来春という見通しがあるからです。一体、総理は、いつ交渉に参加できると考えて今回の決断をしたのでしょうか。
 また、もし、参加した時点で、ルールメーキングがかなり進んでしまい、日本の主張が余り反映されていない段階となると、笑い話にもなりません。なぜなら、参加する段階というのは9カ国の同意を得ているわけでありますから、その時点で参加を撤回すると、日本の国際的信用は地に落ちるからであります。
 ということは、参加撤回の選択肢はないというのが外交常識であります。にもかかわらず、TPP参加への賛否で党内が割れてしまっている民主党の党内事情のためか、政府・与党の幹部の一部は、あたかも途中でのTPP参加撤回の選択肢があるかのように公言をしております。これは普天間移設問題が迷走したときと全く同じ構図であり、私は深い懸念を持っております。
 野田総理、TPP参加撤回の選択肢はあると本当にお考えですか。この質問への答弁で、普天間のときのように再び国民を欺くようであれば、もはや、あなたの総理辞任では済まされないほど重大な問題になります。そのことを認識された上で、率直にお答えをいただきたい。

 次に、TPPと農業について伺います。
 このテーマをめぐる議論では、日本の農業は規制と関税に保護された産業であり、国際競争力が弱いという主張が頻繁になされ、それを前提に、日本の農業再生のためにもTPP参加はよい契機であるとの意見も聞かれます。
 しかし、関税がゼロになりますと、稲作などの土地利用型農業は日本で壊滅的打撃を受けることは、火を見るより明らかであります。日本の農地の集約は、民主党政権の再生目標でも一区画20から30ヘクタールであり、とてもではないが、一区画百ヘクタール規模のオーストラリアには及びません。土地条件の格差、これは農家の努力では乗り越えられないものであります。
 野田総理は、国会で、TPPに参加するしないにかかわらず、日本の農業再生支援を強化する決意を繰り返し述べておられますが、その具体的内容は何でしょうか。もし、一部の欧米諸国をモデルに所得補償措置の強化をするならば、莫大な財源が必要であり、その財源確保の手法についても語らなければ、説得力はありません。この点についての総理の答弁を求めます。
 また、TPP参加により、食料自給率が低下する可能性があります。民主党は、マニフェストにおいて、現在40%の自給率を50%まで引き上げることを明記しておりますが、この公約も断念されたと理解してよろしいのでしょうか。
 これから世界人口が百億人へ向かって増加していくと言われる中で、食料の確保が中長期的に困難になることが予測されておりますが、そういったときに日本の食料の対外依存率を高めることは、国家の安全保障リスク上の問題が大きくあります。総理の見解を伺います。
 TPP参加の影響は、日本の国境を守っている離島にも及ぶ可能性があります。
 日本全体の島の数は6852島でありますが、現在、人が住んでいる有人離島の数は421にすぎません。この数は、終戦直後からほぼ半減いたしております。ただでさえ超高齢化と人口減少に苦しむ離島でありますが、例えば、TPP参加により砂糖の関税などが撤廃されますと、一部の離島の基幹産業であるサトウキビ農業は壊滅し、離島のさらなる無人島化が進むことが懸念されます。
 私は、現在、公明党離島振興対策本部長として、来年度末に期限を迎える離島振興法の改正案をつくる与野党実務者協議に参加しておりますが、その中では、離島の定住促進が最大の課題であります。それは、島嶼国日本の国境はほとんど離島によって形成されており、また、その離島に、さまざまな不利条件の中でも、暮らしてくださる国民の方々がいるからこそ、国境が守られているという認識に基づいております。
 野田政権の閣僚には、この基本的認識が欠如しているのではありませんか。TPP参加が離島に与える影響並びに国境を守っている離島定住者に与える影響について、総理がどのような認識をお持ちか、率直にお答えをいただきたいと思います。

 次に、TPPと日本の雇用問題について伺います。
 TPP参加の最大のメリットは、日本の輸出産業の活性化との指摘があります。確かに、関税がゼロになれば、日本製品の競争力は高まり、輸出が活性化され、経済成長を押し上げる可能性があります。
 しかし、製造業を中心として、日本の工場が昨今の円高なども背景に海外移転をふやす傾向がさらに強まると、その工場で雇用される人の大半は外国人労働者となり、日本人労働者の所得向上には必ずしもつながりません。日本企業の海外工場で、安い人件費で雇われた外国人が製造した製品が、日本に関税なしで逆輸入され、それを所得がふえない日本人が購入する、こんな事態が待っているとすれば、これも余りメリットとは言えないのではないでしょうか。
 野田総理の、TPP参加が日本の雇用に与える影響についての見解を伺います。

 中国や韓国のTPP参加の可能性についても、総理の見識を伺います。
 TPPへの日本参加を主張する方々は、過去十年間で急激な経済成長を実現した隣国の中国や韓国に対抗する手段として、TPPの意義を強調する傾向があります。しかし、中国も韓国も、両国ともいまだにTPP参加の意向を示しておりません。韓国経済は貿易依存率が80%を超えており、最もTPPに前向きになりそうな国ですが、それでもTPPに参加しておりません。
 野田総理は、なぜ中国や韓国がTPPに参加しないのか、その理由についてどのような見解をお持ちでしょうか。また、あわせて、将来的にこの両国が本当にTPPに参加するのかどうか、どのような見通しをお持ちなのか。答弁を求めます。
 最後に、野田総理は、TPPについて、バスに乗りおくれるなと言わんばかりの姿勢を示されてきました。しかし、きょうお聞きしたような数多くの懸念事項にははっきりと答えず、国民に十分な説明をしないままでは、運賃が幾らか明示されていない、行き先も表示されていないようなバスに乗れと言っているのと同じであります。そんなバスには、だれも乗りません。
 早期に国会にTPPに関する特別委員会を設置し、日本に対するメリット、デメリットを徹底的に国民の前で議論することを求め、私の代表質問を終わります。(拍手)

〔内閣総理大臣野田佳彦君登壇〕
○内閣総理大臣(野田佳彦君) 遠山議員の御質問にお答えをしてまいります。
 まず、TPP以外の経済連携への取り組みについてのお尋ねがございました。
 所信表明演説でも述べたとおり、包括的経済連携に関する基本方針に基づき、より幅広い国々と高いレベルでの経済連携を戦略的かつ多角的に進めていく考えであり、日中韓FTAについても早期交渉を目指します。
 我が国としては、TPP交渉参加に向けて関係国と協議に入るとともに、御指摘のありました日中韓FTAや、ASEANプラス3、ASEANプラス6といった取り組みも積極的に推進し、アジア太平洋地域における二十一世紀型の貿易・投資ルールの形成に向け、主導的役割を果たす考えであります。

 TPP交渉における除外品目についての御質問をいただきました。
 今回の日米首脳会談においては、私からオバマ大統領に対して、TPP交渉参加に向けて関係国と協議に入っていくということ、また、昨年11月に決定した包括的経済連携に関する基本方針に基づき、高いレベルの経済連携を進めていくという趣旨の話をいたしました。
 TPP協定については、すべての関税を撤廃することが原則になると考えますが、最終的には、即時撤廃がどの程度となるか、また、関税撤廃の例外がどの程度認められるかについては、現時点では明らかではございません。仮にTPP交渉に参加する場合には、守るべきものは守り抜き、そしてかち取るものはかち取るべく、まさに国益を最大限に実現するために全力を尽くす決意であります。

 TPP交渉参加への時期についてのお尋ねがございました。
 各国が日本の参加に関する態度を決定するまでに要する時間は、各国の国内手続などによって異なるため、一概に申し上げるのは難しいと考えます。
 一方、先般のTPP協定参加国首脳会議で発表されたTPP協定の輪郭によれば、さらなる作業が必要な分野が多く残されていると承知しており、仮に交渉参加をする場合には、我が国としても今後のルールづくりに参画できると考えております。

 続いて、TPP交渉からの離脱についてのお尋ねがございました。
 TPP交渉参加に向けて協議に入る際には、守るべきものは守り抜き、そしてかち取るものはかち取るべく、まさに国益を最大限に実現するために全力を尽くしたいと思います。そのことに尽きるということであります。

 次に、農業再生策と食料の安定供給についての御質問がございました。
 我が国の農林漁業の再生は、TPP交渉参加の判断いかんにかかわらず、待ったなしの課題であります。また、食料の安定供給の確保は国民に対する国家の基本的な責務であり、国内の農業生産の増大を通じて食料自給率の向上を図っていくことが必要であります。
 こうした認識のもと、さきに策定した我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画に基づき、食料自給率カロリーベース50%、生産額ベース70%などを目指し、戸別所得補償制度の適切な推進、農地集積の加速化、青年新規就農の増大、六次産業化等の推進などの戦略を五年間で集中展開してまいります。
 なお、高いレベルの経済連携と、農林漁業の再生や食料自給率の向上との両立を実現するためには、基本方針にある諸課題をクリアし、なおかつ、国民の理解と安定した財源が必要であります。直接支払い制度の改革等も含め、具体的な方策は、国民的な議論を経て、個別の経済連携ごとに検討することとしています。

 離島に関する認識についてのお尋ねがございました。
 排他的経済水域の保全、サトウキビの生産や観光といった特色ある地場産業の展開など、重要な役割を担っている我が国の離島については、TPP交渉参加の判断いかんにかかわらず、振興を推進していく必要があると認識をしています。離島の状況や課題に的確に対応できるよう、例えば、定住の促進に必要な生活基盤の整備や基幹産業の振興など、さまざまな施策に取り組んでまいります。

 TPP参加による雇用の影響についての御質問をいただきました。
 内閣官房が行った試算では、TPP協定交渉九カ国と我が国が物品貿易について100%関税撤廃した場合、結果として、日本の実質GDPが2.7兆円増加するとの結果が得られています。この試算では国内の雇用の増減については分析を行っていないため、雇用面での定量的なメリットについて確たることを申し上げられませんが、一般に、GDP増加に伴う雇用への波及は期待されるものと考えています。
 なお、産業空洞化による雇用の喪失を防ぐため、先般の円高への総合的対応策に基づき、立地補助金等、あらゆる政策手段を講じてまいります。

 最後に、韓国、中国のTPP参加の可能性についてのお尋ねがございました。
 TPP協定は、韓国、中国を含むAPECエコノミーすべてに開かれたものであり、参加するか否かはそれぞれのエコノミーの判断と考えます。
 その上で、昨年の横浜APECにおいて、アジア太平洋自由貿易圏、FTAAPについて、ASEANプラス3、ASEANプラス6及びTPP協定といった地域的な取り組みを基礎としてさらに発展させることにより、包括的な自由貿易協定として追求されるべきことが確認をされています。
 したがって、両国も、TPP協定がFTAAPに向けた地域的取り組みの一つであるとの認識を共有していると考えております。(拍手)