* 日本の姿勢問われる人道的処遇

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山口那津男氏

 中国瀋陽の日本総領事館で5月に発生した北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)住民の連行事件を契機に、わが国の難民政策のあり方が問われています。公明党は2日の政務調査会全体会議で「難民政策の見直しに関する政策提言」を了承し、対応に取り組んでいます。事件の教訓や難民受け入れの現状を踏まえ、処遇改善の方向性などについて、党外交・安保部会の上田勇部会長(衆院議員)、山口那津男部会長代理(参院議員)、遠山清彦参院議員に語り合ってもらいました。

再検討必要な申請「60日ルール」・・・上田
受け入れやすい共生意識 醸成を・・・山口
対応策の「質」充実を優先すべき・・・遠山

山口 瀋陽の日本総領事館事件で問題となったのは、難民の地位に関する条約(難民条約)や領事関係に関するウイーン条約上の解釈、内容ではなく、総領事館内に駆け込んだ北朝鮮住民の強制連行に対する日本側の同意があったかどうかの事実認定の部分です。つまり、同意に関するあいまいさが問題を大きくしてしまった。

上田 これについては、6月19日にタイで行われた日中外相会談で、同様の事件への対応策の一環として、日中両国間の領事条約締結を検討することで合意しましたので、歓迎すべき方向になったと評価しています。

山口 領事館側の対応の問題点としては、緊急時の対処について館員が情報を共有していなかったこと、警備マニュアルが徹底されていなかったことなどが挙げられています。こうした点については早急に改善されなければなりません。

一時的保護の対処法徹底が必要

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遠山清彦氏

遠山 今回の事件をめぐる議論で、一部に総領事館の敷地は日本の主権が及ぶ領域だと思っている人がいますが、土地に関する主権はあくまでも中国側にあり、ウイーン条約によって外交任務を遂行するために外交特権の一つとして不可侵権が与えられています。
 条約に基づいて厳格に言えば、締約国が主権を持っている領域に難民条約に規定された難民(条約難民)が来たときには保護する義務がありますが、領域主権が及ばない在外公館では難民を受け入れ、保護する義務はないとされています。ただし、実態としては多くの国が人道的な観点から在外公館でも一時的に保護する措置をとっています。

山口 “第二の瀋陽事件”が発生しないとも限らないので、一時的保護などの対処法を明確にし、早急に徹底する必要があります。

上田 今回の事件の本質について私は、なぜ中国にある日本の総領事館を対象にしたのかを考えると、北朝鮮から逃れてきた人たちを今後どう扱うのか、難民問題で北朝鮮にどう対処するのかという問題を中国、日本、韓国に問い掛けた事件だと思います。現在、中国国内には北朝鮮から脱出した住民が20万?30万人もいるといわれており、今後想定される事態も含めて関係国はこの問題に真剣に取り組まなければならない。

山口 中国国内にある在外公館への駆け込みには支援グループがいて、しかも瀋陽の場合は映像まで撮って世界に配信していることからみて、北朝鮮の状況を知ってもらいたい、中国が人権に対して寛容なのかどうかを国際社会の視野に入れたいという意図をもって、中国を舞台に起きているのではないかと私は考えています。
 同時に、日本や米国の在外公館が対象になったということは、人権や人道問題に主導的役割を果たすべき両国が目をふさいではいけないという意図も含まれていると思います。

遠山 難民認定が厳しいと、難民の間でもいわれている日本の在外公館をなぜ対象にしたのかを考えると、「日本はこういう場合、人道的にどうするんだ」と問い掛けるには格好の国だとの見方もできます。

不安定な申請者の地位に配慮を

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上田勇氏

上田 瀋陽事件後、国内的な課題としては、日本の領域に来て難民申請を行う、あるいは亡命を希望する人たちを日本政府が今後、どう扱っていくのかという課題に議論が移ってきています。
 難民条約でいう難民は、人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた人々、と定義されています。自国の政治体制と自分の考えが合わないなどの理由の亡命者も難民の一形態と考えられています。
 これに対し、戦争や内戦などによって国外に脱出する人たちは避難民と呼ばれ、難民条約上の難民とはされません。難民の受け入れ態勢のあり方を議論する場合、このことを前提にしなければなりません。

山口 日本の現状を見てみると、ベトナム戦争後に特例として受け入れた約1万人のインドシナ難民を除き、わが国が難民条約に基づいて1982年から開始した難民の受け入れは、この20年間で291人の認定にとどまっています。少ないとの指摘もありますが、言葉や文化の違いなどもあって欧米諸国と比べると申請者自体が少ないという背景もあります。

遠山 まず問題とすべきことは、難民対応策の「質」の部分だと思います。日本における難民申請手続きや認定難民の処遇など、現行制度に不備があることは明らかです。早急な改善策の検討が必要です。

上田 指摘のあった申請手続きで一番問題となっているのは、日本に上陸してから60日以内に難民申請をしなければ認定作業を行わないという「60日ルール」です。知らない国に来て60日以内に申請手続きを求めることには無理があるとの批判が強い。このルールは運用も含めて再検討が必要です。

山口 難民認定の申請から結果が出るまでの期間が長過ぎるという問題もあります。新規で難民申請した場合、最近は1年以内に結論を出すよう法務省が努力しており、少しは改善されました。しかし、結論が出るまでの間、不法入国や不法残留の申請者の地位が不安定なままです。

遠山 さらに大変なのは、そのような申請者のうち、不認定の場合の不服申し立てや2次申請、3次申請をする人で、そういう人たちは結果が出るまで長く強制収容されていることです。このため、人道的配慮により仮放免や特別に在留許可が与えられる人も増えています。認定手続きや不服申し立てが入管業務の傍らで行われていることも公正さを疑わせる原因となっています。

人間の安全保障の観点で万全に

上田 手続き面の改善を急ぐとともに、21世紀の日本にとって外国人との共生社会をどうつくっていくかが非常に大事になってくる。難民を多く受け入れている国が難民を手厚く保護しているかというと一概にはそうとも言えない。しかし、そういう国々には難民を受け入れてきた歴史的経緯、社会的土壌があるために定住しやすい開かれた社会がある。

山口 ところが、日本は難民を大量に受け入れたという経験がない。そういった意味では閉鎖社会ですから、その中で難民の人たちが自立するのは大変です。難民問題を端緒に、世界に開かれた共生社会の意識を政治、行政、社会などの各分野で醸成していくべきです。

遠山 米ソ冷戦時代は、国家の安全保障優先の観点から世界が動き、その下で人間が忍従を強いられた面がある。その反省にたって出てきたのが人間の安全保障です。難民問題は人間の安全保障における重要なテーマであり、条約難民に対する人道的処遇の確立は避けて通れません。
 そのためには関係省庁バラバラの対応ではなく、内閣官房が総合的に支援策を打ち出す態勢にしていくべきです。

山口 現状の条約難民は、難民認定書を法務省でもらったら、あとは自分で生き延びていくしかない。最近はNPO(民間非営利団体)やUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)東京事務所で支援するようになりましたが、それでも大変です。政府の支援とともに、NPOなど民間団体との連携の中で支えていくという態勢が重要になってきます。

遠山 インドシナ難民を長年にわたって受け入れ続けている東京・品川区にある「国際救援センター」では、日本語習得や日本の生活に適応するための研修を6カ月間行うほか、仕事のあっせん、住居の紹介もしている。条約難民に対しても総合的な支援策を講じるべきであり、これができるかどうかが国際社会の中の日本としての試金石になります。

上田 難民問題は人権、人道問題と密接にかかわる問題なので、今後の制度改善、支援態勢の充実、社会的理解の醸成などに、人権の党・公明党らしさを発揮していきたいと思います。
(公明新聞)