遠山清彦です。8月26日から6日間にわたり、衆議院法務委員会の理事として米国ワシントンDC、ロサンゼルスを訪問し、法務行政に関連の深い治安・司法・矯正関連施設や国境を越えた「子の連れ去り」への対応を定めた国際的なルールである「ハーグ条約」関連施設を視察・調査し、意見交換しました。この6日間で非常に多数の施設を回りました。かいつまんで報告します。

今回の訪問の主目的は3つありました。(1)米国警察治安機関における「取り調べの可視化」の実態(2)米国における再犯防止の取り組み(元受刑者による再犯の防止策)(3)子の連れ去りに関するハーグ条約に関する米国当局の取り組み。机上ではなく、まさに現場での取り組みや問題点を調査しました。

「取り調べの可視化」への取り組み

群、市、連邦とそれぞれのレベルでの取り組みを知るために、バージニア州プリンスウィリアム群警察、ロサンゼルス市警オリンピック署、FBI本部などを訪れました。

米国においてはどのレベルでも、「取り調べの可視化」、具体的には尋問等の録画・録音は、法律で義務付けられてはいません。しかし、FBIを除くと、群警察でも市警察でも、可視化の取り組みは広範に行われていることがわかりました。その理由は簡単で、刑事事件が起訴され訴訟に至った際に、被疑者の供述や自白が公正に得られたことを客観的に証明するためには、尋問の録画が有益だと米国警察機関が判断するようになっているからです。

群警察や市警幹部たちは、「可視化は法律上の義務ではないが、尋問の公正性を証明するため、なるべく証拠の録音録画をしている。事件全体の90%以上で実施している。」と言っていました。「ではなぜ、可視化を米国で法律上の義務にしないのか?」との私たちの質問には、「それは予算の制約のためだ。米国全土の警察で可視化をするためには、莫大なコストがかかる。」と説明し、「可視化を原則として普及させる」ことが、米国の主流の考え方であることがわかりました。

私は、今回の視察を通じて「日本も可視化を進めるべきだ」との感想を強く持ちました。ただし、留意点がいくつかあります。一つは、日米の捜査、尋問手段の違いです。米国では、捜査官が偽IDを使い犯罪組織に潜入するなどの「おとり捜査」(undercover operations)や、ウソに基づく「誘導尋問」での自白の引き出し、司法取引(情報提供と引き換えに減刑する等)が認められていますが、日本では認められておりません。

さらに、米国の連邦警察であるFBIなどは、可視化に消極的(事件全体の10%程度のみ録画録音)であり、その大きな理由は犯罪組織(マフィアなど)や国際的テロ事件を扱っているからです。FBIの幹部の中には、捜査手法の過剰な可視化は、犯罪組織などに警察側の手の内を明かすことになるので、良くないと考える人たちもいるようです。

日本において可視化を進める際には、米国が日本と異なる連邦国家であることにも留意しながら、慎重な検討を加えつつ、しかし、将来的には広げられるだけ広げたほうが良い、と私は思いました。なお、余談ですが、米国の治安は10年前と比べると全般的に改善されている、との印象を持ちました。

再犯防止への取り組み

日米双方に共通する課題として、犯罪の多くが元受刑者によって再び繰り返される、という点があります。再犯率を低減するためには、刑務所を出所した人々が再び犯罪に走らないような仕組みを強化する必要があります。特に、出所後の雇用と住居の確保、が大切です。

米国においてもこの点は強く意識されており、あらゆる刑務所や他の矯正施設において様々なプログラムがあるようです。私たちが今回訪問した施設の中で、最も成功している民間団体「ディランシー・ストリート財団」(DS財団)の取り組みに焦点を当てて報告したいと思います。

DS財団は、サンフランシスコに本部を置く「受刑者に対する社会復帰支援施設」であり、政府の補助金を受けずに運営されています。しかもこの施設の運営は、この施設に入所して更生した元受刑者たちによって行われており、私たち視察団に対応した二人の男女は、ともに薬物中毒を克服した元受刑者でした。

ロサンゼルスのDS財団施設の責任者は、デイブという男性です。彼はこの施設で活動するようになって8年ですが、以前の25年間は薬物中毒者であり、刑務所に送られること4回という、かなり絶望的な境遇にありました。ところが、彼は、この施設に入り、たった2年で薬物中毒を克服し、施設の責任者として新たな入居者への教育を任せられる立場に就いていました。彼の隣に座っていたローラという女性も元は重度の薬物依存症であり、刑務所にも2回送られておりました。しかし、4年経った今は女性入居者の指導者を務めていました。

「この施設はどうして、そんな奇跡のようなことができるのか?」私たちは、繰り返しこの二人に質問しました。

「DS財団の社会復帰支援施設は、大変に厳しい規則があり、それを守る意思のない人は入所させない。また、本当に自分の決意として『薬物中毒や犯罪から抜け出したい』という考えを持っていなければ、施設に受け入れないことになっている。

DSは、刑務所にいる受刑者から入所の意思を示した手紙を受け取ると、刑務所に面接に行く。そこで大丈夫だと判断すれば、裁判所判事の許可を得たうえで、残り刑期を保留してもらい、保護観察か仮釈放の状態で、その受刑者を刑務所からDS施設に移す。入所者は、誰でも最低2年間、施設にいなければならない。

施設にいる間は、携帯電話・インターネットアクセスは禁止する。また、入所してから15カ月間、自らの子供に連絡をしてはならず、配偶者や恋人との接触も18カ月間は禁止される。そしてこの間に、DSは入所者に教育を与え、職業訓練を施し、仕事も与える。職業訓練は15種類。仕事もDS財団が所有している引越会社や装飾会社があり、そこで無報酬で働いてもらい、財団の収益につなげる。その代わり、入所者の居住費・食費・教育費すべて無料にしている。ロサンゼルス施設の入居者数は、現在190名程度。2年後に出所した人の再犯率は、30%を割り込んでおり、裁判所や警察機関から高い評価を受けている。

DS財団の施設入所者は皆平等であり、家族同然の暮らしをしている。暴力事件も、年に一件あるかないか、だ。施設所長である私(デイブ)も、元強烈な犯罪者だし、経理長は、ホームレス歴10年だ。『誰でも、いつでも、やり直すことができる』これを私たちは証明することができた。そのことを誇りに思うし、もっと多くの受刑者に同じ経験をしてもらいたい。」

これ以上の詳細は省きますが、私たちは、本当に驚き、感動しました。私たちの前で、2時間にわたり饒舌にわかりやすく説明している男性が、25年間以上薬物中毒だった人であり、薬物売買人であった、ということがとにかく信じがたかったのです。衆院法務委員会理事としても、このDS財団の幹部を日本に招聘し、講演などしてもらいたい、と思います。そして、日本でも、もっともっと元受刑者の受け皿を作らなければならない、と強く思いました。

子の連れ去りに関する「ハーグ条約」への取り組み

ワシントンDCでは、国務省児童問題局という部局の担当官僚たちと意見交換しました。ここでは、日本人と国際結婚し後に離婚した米国人配偶者から「子供を不当に日本に連れ去られ、面会もさせてもらえない」という苦情が多数寄せられている実態などが問題提起されました。私たちは、そういった問題の存在を認めた上で、しかし、日本が条約に加盟する以前の問題は、一切適用除外である旨を確認しました。今後、日米の当局(国務省と外務省)同士で緊密な連携をしてもらい、親と子どもの立場、双方に配慮しながら、ケースバイケースで最善な結果を生み出せる体制を築いてもらいたいと思います。

一方、ロサンゼルスで私たちが訪問したリトル・トーキョー・サービス・センター(LTSC)では、DV(ドメスティック・バイオレンス)被害にあっている日本人女性の苦難とそこに対する支援の実態について、学ぶことができました。

アメリカに住む多くの日本人女性が、DV被害にあっても訴え出ない、その大きな理由は「夫の承諾がないと、グリーンカード(米国永住権)がもらえない」という錯覚と、やはり子供の未来への配慮にある、とのことでした。

私も初めて知りましたが、実はDV被害にあっている日本人女性の場合、夫の承諾がなくても、VAWA(=Violence Against Women Act)という法律に基づく仕組みで、離婚した上でのグリーンカード取得ができるそうです。また、ロサンゼルスでも、子どもと着の身着のまま逃げてきた母子をかくまう緊急シェルターが用意されており、担当者の方は、「とにかく自分だけで抱え込まないで、相談してほしい」と言っておりました。

来年4月以降、日本人も本格的にハーグ条約の対象になってきますが、どこまでも女性とその子供の人権や福祉を最大限に重んじる法の運用を図っていきたいと決意しています。