遠山清彦です。今週後半に、ASEM(アジア欧州諸国会議)から帰国する菅総理を待って、本会議代表質問が予定されています。補正予算、景気対策、財政再建に加え、尖閣諸島問題で揺れる日中関係や暗雲垂れ込める北方領土問題をはじめとする日本外交のあり方が、大きな焦点となります。

尖閣諸島海域において公務執行妨害容疑で逮捕され、司法プロセスの途中に処分保留のまま釈放された中国漁船船長の問題は、9月30日の衆院予算委員会集中審議で議論され、私もその場で一部始終を聴きました。

結論から言えば、民主党政権になって1年が経過し、「日本外交は著しく劣化した」と思いました。「政治主導」の美名の下に、外務官僚の専門知識や経験を活用せず、戦略とセンスのない素人外交を積み重ね、普天間問題や尖閣問題に象徴されるように、国内はもとより海外の関係者からも失笑を買っているのが現実です。

尖閣諸島は日本の固有の領土であり、かつ日本が実効支配しています。まず、「実効支配」をしている点で、竹島や北方領土の問題とは本質が違う点を認識することが大切です。つまり「尖閣諸島が日本である」というのは、「福岡県が日本である」という当たり前のことと、意味が全く同じなのです。それぐらい尖閣諸島は日本であるということです。

予算委員会の質疑では、「尖閣が日本の固有の領土である、ということを、もっと外務省がアピールすべきだ」との主張がありましたが、外務省がそれをあまり強調してこなかったのは、「福岡県が日本である」とわざわざ主張する必要がないのと同じだからです。あまり騒ぎ立てると、事情をよく知らない諸外国政府やメディアから、「なんだ、日中の間には、『領土問題』があるのか」と誤解されるリスクが、逆に生じるわけです。これは、外交戦略上、あまり好ましいことではないという判断です。

ただし、日本国民の中には、「尖閣諸島が固有の領土である」という当たり前の認識が浸透していない面もあるようですから、その点での広報に力を入れることは、重要だと思います。

日本である尖閣諸島海域に入りこむ中国漁船や人への対応には、2つの次元での手法があります。一つは、入国管理行政の次元であり、この場合、対処の基本は「退去強制」となります。もう一つは、司法の次元での対処であり、今回のような公務執行妨害容疑での逮捕がこれに当たります。

実は、今回のような事態が発生した際に、政府首脳が判断しなければならなかったのは、このどちらの次元で対処するか、ということであったのですが、初動段階でこうした問題を熟慮した形跡がありません。(予算委員会質疑で自民党の小野寺委員が明らかにしたように、事案発生当時、菅総理は民主党代表選挙で頭がいっぱいだったようです。)

誰の判断なのか、明らかではありませんが、結果として民主党政権は漁船の船長を逮捕し、司法プロセスを起動しました。司法手続きに乗せたということは、日本は法治国家であり、司法の独立がありますので、総理官邸といえども、そう簡単に「政治介入」してはならないことを意味します。(介入した場合は、指揮権発動であり、なぜ発動したのか、説明責任が求められます。)

今回の事案に関わる客観情勢からみれば、船長の捜査・事情聴取を最後まで適切に行い、法と証拠に基づいた司法判断(起訴など)を下すのが、法治国家としてのあるべき姿だったと思います。

ところが、初動段階で対処の次元の違いを検討することも、中国の反応を予測することもまともにできなかった民主党政府は、司法プロセスの途中でおろおろし始め、中国の温首相の米国ニューヨークでの「無条件釈放要求」(9月22日早朝)に屈するような形で、おそらく何らかの政治介入をして、船長の釈放をやってしまいました。

そして政治介入を否定するために、こともあろうに外交判断をする権限を全く持っていない検察庁(しかも、那覇地方検察庁)に、責任を全て押し付けたのです。

すでに多くの識者・外交専門家が指摘しているように、今回の政府対応は、いくつもの深刻な問題を内包しています。主な問題点を列挙すると、1.司法の独立を政治が犯す悪しき先例を作った可能性があること。2.国境近辺の問題対処で、高度な政治判断を検察庁が下すことができる、という悪しき先例を作ったこと。3.日本政府は、外国の圧力で適正な司法プロセスをねじ曲げることがある、という悪しき先例を作ったこと。4.そもそも今の政府は、高度な外交判断をする能力がない、ということを諸外国に露呈したこと。

これらの問題の影響は、すでに顕在化しています。ロシアの大統領が北方領土訪問を計画し、それを堂々と公表しはじめたのが良い例です。もしこれが実現すると、日ロ関係は決定的に悪化します。劣化した日本外交の足元が見透かされ始めている、と感じているのは私だけではないでしょう。

それなのに、自らへの反省もなく、民主党の枝野幹事長代理のように、逆ギレして中国を「悪しき隣人」と非難し、「そういう国と経済的パートナーシップを組む企業は、よほどのお人よしだ」(10月2日)などと発言してしまう。国際情勢を理解していない人特有の幼稚な発言をする人が、与党幹部をやっていることに、深い懸念を持ちます。

もちろん、政府与党の外交能力の低さを嘆いているだけでは、野党とはいえ、国民の代表者としての責任を果たしたことにはなりません。国会質疑等で政府与党の問題点を指摘し、建設的な提案をすると同時に、公明党も党としての外交努力で、少しでも事態の改善を図らなければなりません。党国際局長としての責任を痛感しながら、日本の国益のためにがんばりたいと思います。