ヤング新春対談
現場からニート支援を考える
「育て上げ」ネット理事長 工藤啓氏
党青年局長、参院議員 遠山清彦氏

 働かず学ばない“ニート”と呼ばれる無業の若者が急増している。厚生労働省の調査によればその数は約52万人にも及ぶ。政府は来年度から、合宿方式で生活規律を学び資格を取らせる「若者自立塾(仮称)」をスタートさせるなど、ニート支援に本格的に取り組んでいく方針だ。今後のニート支援の在り方について、NPO法人「育て上げ」ネットの工藤啓理事長と公明党の遠山清彦青年局長(参院議員)に語り合ってもらった。

『まずは親が視野を広げるべきだ 工藤』
『「社会の現実」と「教育の理想」に溝 遠山』
『学校から就労への移行(日本版コネクションズ)を支援する仕組み必要 工藤』 
『日本は個性を強調する一方で職業教育が欠落 遠山』

遠山清彦青年局長
遠山清彦青年局長 NPOによるニート支援の取り組みが、政府をはじめ関係者から大変に注目を集めています。工藤さんの「育て上げ」ネットもその一つです。

工藤啓理事長 「育て上げ」ネットでは、就労体験を柱とした訓練プログラムを実施しています。参加者は、スタッフのサポートを受けながら、農作業やビル清掃、ボランティア活動に従事しています。

遠山 ニートになる若者に何か特徴とか共通点がありますか。

工藤 僕らが受け入れているのは対人関係に不安があり、人とのコミュニケーションが苦手な若者たちです。ですから彼らがフリーターになりたいと思っても、まず面接で落ちてしまう。しかし働く能力は持っています。真面目な若者が多く、特に一つの作業をコツコツやる能力がある。これは体験上、自信を持って言えることです。

遠山 農作業のような根気がいる地道な仕事が向いているわけですね。

「育て上げ」ネット理事長 工藤啓氏
工藤 そうです。ただ支援を考える場合は、まずアルバイトができるようになることを目標とすべきです。ニートから正社員はなかなか難しい。なぜなら、訓練によって社会参加がようやくできるようになった彼らにとって、正社員として働くことは飛び級と一緒だからです。

遠山 私は、ニートの中に20、30歳代のひきこもりの若者も含まれると思いますが、それぞれ状況も違えば性格も違う。一律でなく個人の多様性を踏まえた細やかな対策が必要だと考えます。

工藤 昨年10月、イギリス・ブレア政権下のコネクションズ・サービス制度を調査・研究してきたのですが、その意味でいえば、イギリスは学校段階からきめ細かく対策を講じていました。これは学校の中にまでアドバイザー(相談員)が入り、早い段階からキャリア相談などを行い、卒業しても無業者にならないように導いている制度です。仮にニートになったとしても、社会的に孤立することがないよう職業訓練などサポートしています。

遠山 パーソナルアドバイザーが生涯にわたり面倒を見るシステムですね。民間も行政も関係なくさまざまな団体がかかわっている。日本も大いに参考にすべき制度ですね。ところで工藤さんは、日本のニート急増の背景をどう分析されますか。

工藤 三つあると思います。一つは「年齢のミスマッチ」です。景気が悪くなるとどうしても雇用条件が厳しくなる。年齢制限などは最たるものです。でもこれは景気が良くなれば緩和されます。もう一つは「スキル(技能)のミスマッチ」です。これは職業能力を開発すればいい。学べばいいし、訓練すればいい。最後が「心のミスマッチ」です。「やりたいことが見つからない」「やりたいことがない」という状態です。ニートの若者は心のミスマッチがすごく多い。

遠山 「心のミスマッチ」に陥る要因は?

工藤 一つは親の言動が一貫してない点です。例えば、子どもが高校生になるぐらいまでは、将来の夢を聞かされた親はわが子に対し「自分の好きな通り生きなさい」と励ます。ところが、子どもが大学生になって「音楽で生きていく」と言ったりすると、「それでは生活が安定しないだろう」「会社員か公務員になりなさい」と突然言い出す。子どもは結果的に就労意欲を失ってしまう。

遠山 せっかく見つけた夢を親が打ち砕いてしまうわけですね。私は心のミスマッチとは、言い換えれば「社会の現実と教育の理想のミスマッチ」ではないかと思います。つまり僕らが幼いころ、社会人のモデルと示されたのはまさに輝いている人でした。二宮金次郎や野口英世などの生き様を例示して「頑張れ、頑張れ」と子どもたちを鼓舞してきた。ところが現実は、みんながそういう人間になれるわけではない。子どもたちが「現実と理想は違う」と気づいた時、ニートになってしまう気がしてなりません。

工藤 モデルを示すなら雲の上にいるような人ではなく、これは「ニート」の著作で知られる東京大学の玄田有史助教授の言葉ですが「ちゃんといいかげんに生きている人」、つまり普通の社会人の話をもう少し聞かせないといけないと思います。また、若者が働くことに希望が持てない理由として、「スーツを着て、満員電車に乗って会社に行く」ことが働くことだという固定的なイメージに、親や本人ががんじがらめに縛られている点が挙げられます。働き方はいろいろです。本人もそうですが、まず親から視野を広げるべきでしょう。そのためにもニート支援に関する情報は、まず親向けに発信することが最も重要です。

遠山 それから最近感じるのですが、個性を重視するあまり義務教育の段階から「やりたいことを見つけよう」「自分らしく」と強調し過ぎているのではないかと思います。その一方で手厚く行うべき職業教育やキャリア教育が欠落している。

工藤 やりたいことを見つけてその仕事に就けた人は幸せだと思います。しかし、やりたくない仕事に就いたからといってその人は不幸せではないと思います。そして、「なぜ仕事に対して希望を見い出さねばならないのか」ということです。別に「趣味に希望を見出した結果、こういう仕事を選んだ」でもいいのではないかと思います。

遠山 「何のために働くのか」ということですね。「生活するために働く」が労働の原点のはずです。「やりたいこと」を探すより、「できること」を探すことも大切ですね。できることはだれにでも必ずある。それをやることによって見えてくることもあります。

工藤 私も現場で「働く意味が分からない」とよく質問を受けます。最近では「自由になることだよ」と答えています。彼らのほとんどは親にパラサイト(寄生)しています。パラサイトするしかないからです。働いてお金を稼げば一人暮らしもできるし、パラサイトも選択できるという意味からそう答えています。

遠山 現場からの提案を聞かせてください。

工藤 働きたくて力をつけたいと思っている若者のための就労育英基金制度をぜひつくってもらいたい。それから最近、支援のネットワークを広げる中で支援者が支援疲れを起こしかけているなと感じます。若者を自立させるには、一生懸命に取り組んでも5年もかかる場合もあります。支援者が疲弊して辞めてしまう例が出てきました。

遠山 資金とか、人的資源の面での支援が必要ということですか。

工藤 一番困るのは、自分たちが扱えない若者まで押しつけられてしまうことです。お金よりもむしろ、「こういう若者にはこの支援機関がいい」とか、「この若者にはカウンセラーを派遣してもらいたい」などの要請にこたえられる、イギリスのような民間と行政が連携した仕組みをつくってもらいたい。また、若者の就労支援には時間がかかります。ジョブカフェなど政府の支援策についても費用対効果ばかりを判断の基準にしないでほしい。ある程度の長い期間かけて見ていくことが大切です。

遠山 あくまでも若者の目線に立って施策を展開していくことが重要だということですね。

工藤 そうです。それにもう一つ。政府が青年政策を考える際は、政府の諮問機関となる委員会や懇談会に必ず青年を入れるべきです。イギリスでは、委員の3分の1は当事者年齢の人が入っています。また、スウェーデンのような青年大臣も作ってほしいですね。

遠山 大事な視点です。これからも公明党は現場の声を国政にどんどん届けていきたい。将来の日本を担う若者のために、党をあげて支援に全力で取り組みます。一緒にやりましょう!

●くどう・けい 1977年、東京生まれ。大学中退後に渡米。帰国後、ひきこもり、ニート、フリーター等の就労支援団体「育て上げ」ネットを設立(2004年5月にNPO法人化)。厚生労働省設置の「ヤングジョブスポットよこはま」でチーフアテンダント(03年)、立川市設置の「ジョブステーションたちかわ」で統括責任者(04年)となる。労働政策研究・研修機構「若年移行支援研究会」委員。内閣府「若者の包括的な自立支援方策に関する検討会」委員。厚労省「若者自立塾(仮称)設立準備懇談会」委員。
(公明新聞:2004年1月5日付)